関節治療の専門医に聞いてみました!

第110回 人工関節手術
患者さんが麻酔で眠っている間、どのように手術が進んでいくのかを教えてください

ドクター
プロフィール
高知大学 医学部 整形外科 教授・医学博士
エリア 高知県タグ
この記事を印刷する
池内 昌彦(いけうち・まさひこ)先生
人工関節手術を受ける患者さんの多くは、手術の直前に全身麻酔を行い、目が覚めたら手術が終わっているという少し不思議な体験をするわけですが、「麻酔で眠っている間、どのように手術が進んでいくのだろう?」とふと疑問に感じた方はいませんか? そこで今回は、高知大学准教授の池内昌彦先生と看護部副看護師長の谷脇実紀看護師にお話を伺いました。

患者さんが手術室へ入室する前に、どのような準備をされているのでしょうか?

池内Dr.:膝や股関節に痛みを覚える患者さんが人工関節の置換手術を行う、その重大な決意をするにあたっては、患者さんご本人だけでなく、ご家族にとっても不安が伴うものです。私たち医師や看護師は、言葉による説明はもちろんのこと、手術に関する本を渡して読んでいただいたりして、時間をかけて不安を取り除くように努力します。
患者さんが怖がっていては何もかもがうまくいきませんし、ご本人に意欲がなければ、術後のリハビリも続きません。
また手術をしたあとに、「できること」と「できないこと」の説明をし、正しく理解していただくのも大切なことです。患者さんが手術後の生活に対して多大な期待を抱き、かえって満足されない場合もありますので、いろいろなケースがあることをあらかじめ理解していただきます。
そしてようやく手術をしましょうと決まると、手術前検診を行います。問題があれば精密検査もします。ご高齢の患者さんは薬を多数服用している場合が多いですから、手術に備えて薬の量を調整することもあります。
そして日程が確定するのが手術の約3週間前です。必要に応じて手術に使う自己血を採取し、パックにして冷蔵保存しておきます。
手術の前々日か、前日には入院していただき、手術室の看護師が術前訪問をします。患者さんは何が行われるかわからないのが一番不安ですから、その不安を払拭できるように説明をします。執刀医、麻酔科医も訪問し、手術の概要や流れとその後のリハビリについても説明します。

谷脇Ns.:1週間前に具体的な手術の予定が決まると、手術に必要な器械類を人工関節のメーカーに発注します。器械の各パーツはバラバラの状態で届きますので、それをオートクレーブという高圧の蒸気滅菌にかけ、前日には組み立てられた状態にしておきます。最低50種類ほどの器械があり、執刀医によって使うものが違います。多い場合は100種類近くにもなり、それをすべて把握する必要があります。
清潔に滅菌された手術着を揃えることも看護師の仕事です。手術が始まるときには全てが揃っているようにします。
当日は麻酔科医が麻酔の準備を整え、術者の手洗い消毒を徹底し、手術に臨みます。

手術前に念入りに準備をするのはなぜですか?

池内Dr.:もっとも避けなくてはならないのが、手術中の感染です。感染すると、痛みが出るだけでなく、再手術が必要になる危険性もあります。
もともと関節や骨は外気と触れることがない完全な無菌状態です。そのうえ関節内は血の巡りがほとんどない組織ですから、いったん感染すると、抗生剤も効果がありません。菌を取り除くには、直接、生理食塩水で洗うことになります。
人工関節の置換手術では、初回手術よりも2回目以降の再置換の際に感染リスクが高まり、入院が数カ月に及ぶ場合があります。術後のケガなどで感染する場合もあるので、原因は「これ」と断定できるわけではありませんが、術中の感染を防ぐために細心の注意を払うのは当然のことです。手術が短時間でスムーズに行われるように器械のセッティングなど万全の準備をするのも、感染を防ぐためなのです。
最近は、「クリーンルーム」と呼ばれる、二重扉を使った大きな空気清浄機のような部屋で手術を行う病院も増えてきました。

手術に関わるスタッフについて教えてください。

池内Dr.:一般的には、主治医を始めとする執刀医が2〜3人、麻酔科医が1〜2人。人工関節置換手術では全身麻酔を行うことが多く、麻酔科医は最初に麻酔をかけたあとも、心電図、血圧、血液中の酸素濃度など患者さんの変化を絶えず観察して、麻酔をコントロールしています。
それから手術室に入って直接器械を出す看護師が1〜2人、「外回りナース」と呼ばれる看護師が1〜2人。外回りナースは直接手術には関わりませんが、いろいろな物品を取って来たり、セッティングをしたり、患者さんはもちろん、医師の動きや機器の管理まで全て同時に神経を配る仕事です。直接器械を出す看護師は、一度手洗い消毒をして手術が始まると、滅菌されていないものはペンひとつ持てない、何も触れられない状態ですから、外回りナースが全体を見回して外と手術室をつなぐ役割を果たすわけです。
このメンバー全員で、手際よく手術を進めていくように協力し合います。

たとえば、患者さんが朝8時半に病棟を出て手術室に入るとすると、患者さんの名前、膝や股関節の左右が正しく合っているかなど、時間をかけてさまざまな確認をします。どんな細かいことも、思い込みによる間違いを防ぐために何重にも「しかけ」をつくってチェックするのです。それから全身麻酔をかけますが、初めて手術を受ける患者さんは、手術はもちろんのこと、麻酔にも「怖い」という思いを抱く場合が多いですから、気分をほぐすために医師も看護師も声をかけます。
そして9時半から10時の間くらいに手術がスタートします。1時間半くらいで終了し、回復室に移動。麻酔から覚めて、特に痛みがなければ病棟に戻ります。だいたい午後1時には戻れます。

手術中に一番身近で術者のサポートをしている、手術の器械出し担当の看護師さんに伺います。手術中に注意していることはありますか?


看護部副看護師長
谷脇 実紀
(たにわき・みき)
看護師

谷脇Ns.:まず手術前の予習がとても大切です。手順がスムーズに行われるためには、実際に器械に触ってみて、何が、どの部分に、どのように使われるのかを知る必要があります。
定期的に勉強会を設けてベテラン看護師が後輩の指導をしたり、医師や人工関節のメーカーの方に説明していただいたりして、知識をつけて手術に臨むようにしています。
正直、手術に用いる器械が手術の前日に届き、50種類以上のアイテムの名前から使い方までを覚えるのはプレッシャーがかかります。再置換の場合はより多くの器械が必要ですし、想定外のことにも対処できるように、多めに準備する場合があります。
ほとんど使う可能性がないとしても、看護師としてはすべてを把握しておかなければなりません。約1時間の手術で50以上の器械を次から次へと出して医師に渡していくという手際のよさと正確さを求められますから。

手術チームの連携が大切なんですね。

池内Dr.:毎回同じスタッフで手術を行うわけではなく、麻酔科医や看護師といったメンバーがその都度入れ替わるケースも珍しくありません。ですからスムーズに進行するように、コミュニケーションをとることが非常に大切ですね。
人工関節の置換手術は、時間的に長くありませんから体力的にはそうきつくないですが、感染症のリスクを軽減するためには、とにかく「手際よく」行うことが大事です。もちろん肝心なところは丁寧に行います。
スタッフが共通認識を持って、この大事なところをリズムよく行えると全体がスムーズに流れますし、感染のリスクも軽減します。

谷脇Ns.:看護師にもよくコミュニケーションをとるように指導しています。「わからなければ、先生によく聞きなさい」と。ただ手術が始まってからの質問は執刀医の手を止めてしまうので、できるだけ手術前に質問するように心がけています。インプラント(人工関節)のサイズの確認など安全性に関わることは、2重3重にチェックをし、声を出して確認します。また手術中の雰囲気をなごやかにするようにも心がけています。

池内Dr.:術後の痛みを軽減するために、全身麻酔に加えて神経ブロックという手法をとっているのですが、その方法ひとつにしても医師によってやり方が違い、患者さんによっても効き方が異なります。ケースバイケースだけに、手術が円滑に行われるためには、医師、看護師全てのコミュニケーションが欠かせません。 無事に手術が終わったら、いかにスムーズにリハビリに移行していただけるかが勝負となります。そのためには術後の痛みを減らすことが大切です。患者さんが「痛い」とおっしゃれば、薬を投与したり、患部をさすったり、お話をよく伺って不安を軽減するなど何かしらのアクションを起こします。「切ったら痛いのは当たり前」という医師の態度は、患者さんにとってはつらいものですから、そうならないよう常に寄り添うように心がけます。 また患者さんによっては、「隣の人はもうスタスタ歩いているのに、自分はリハビリが遅れているのでは?」などと不安を持ちますので、そういう場合も、医師や看護師は声掛けをして、不安を取り除くよう心のケアに努めます。

谷脇Ns.:麻酔から覚めかけて朦朧(もうろう)としているときでも、軽く手を置くだけで「痛くなくなった」と安心される場合があります。そのような細やかなケアによって患者さんがスムーズにリハビリへと移行できると、私たちもうれしく思います。


記事の一覧へ
ページの先頭へ