関節治療の専門医に聞いてみました!

第28回 膝の痛みはロコモティブシンドロームの大きな誘因
症状を早期発見・予防・治療して、健康寿命を延ばしましょう!

ドクター
プロフィール
日本整形外科学会認定専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本人工関節学会評議員、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会評議員 、リウマチの外科研究会評議員、東日本整形災害外科学会評議員、ISAKOS(国際関節鏡、膝、スポーツ医学学会)会員
エリア 宮城県タグ
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中高齢者の膝の痛みの原因にはどのようなものがありますか。

変形性膝関節症の進行過程
関節の隙間が十分残っているかどうかで判断

中高齢者の膝痛の原因は、ほとんどが変形性膝関節症ですが、ほかにもいろいろな原因が考えられます。例えば、半月板損傷や骨壊死、最近は高齢になってもスポーツをする人が多いので疲労骨折なども考えられます。これらは一つひとつ対処法が異なりますので、まず正確な診断が必要です。場合によっては、MRIなどの精密検査が必要なこともありますし、治りが悪い場合には、手術を考える必要もあるでしょう。
変形性膝関節症は、老化による変性を基盤にして膝関節の軟骨がすり減って起こる病気です。レントゲンで見ると、軟骨が減って骨と骨の隙間がなくなっているのが分かります。関節鏡で膝の中を直接見ると、軟骨がなくなって骨が露出しています。
多くの患者さんは、「早く治してほしい」とか、「完治しますか?」などと言いますが、関節の変性は5年、10年かけて少しずつ進んできたものなので、特効薬はありません。現代の医学で、擦り減った軟骨を元通りに治すこともできません。とはいえ、痛みを取る方法はいろいろありますから、あせらずに時間をかけて、気長に一生付き合うつもりで治療していくことが大切です。痛みや違和感などを覚えた場合、正確な診断と適切な治療のためにも、まず近くの整形外科医に相談してください。整形外科医同士、それぞれの分野の専門医に紹介・連携を行うこともできます。

変形性膝関節症の治療法について教えてください。

変形性膝関節症と診断された場合、治療の目的は痛みを軽くすることがメインになります。その方法には、痛み止めの内服薬、湿布や軟膏、ヒアルロン酸の注射、温熱療法、筋肉を付ける筋肉訓練、装具療法などいろいろあります。これらをすべて含めて保存療法といいますが、整形外科では、一人ひとりの状態に合わせて組み合わせていきます。誰でも同じ治療法がいいとは限りません。
痛み止めに関する注意点として「鎮痛剤を飲むと胃潰瘍になる」などと服薬を毛嫌いする人がいますが、それは間違いだと思います。漫然と飲み続けるのは良くありませんが、痛い時には痛み止めの薬をきちんと飲み、痛みが軽くなったら少しずつ減らしていくということが大切です。逆に安心のためにずっと飲んでいる人もいますが、それも誤りです。
温湿布と冷湿布の違いを気にする方がいますが、湿布は温めたり冷やしたりするものではありません。湿布や軟膏などの外用薬は、痛みや炎症を抑える成分が皮膚からしみ込んでいって効果を出すものですので、使いやすいものを使えばいいと思います。なお、「膝に溜まった水を抜くと癖になる」とよく言われますが、それは大きな誤解です。水が溜まって苦しかったら抜くしかありません。抜くと癖になって水が溜まるのではなく、炎症が残っているから溜まるのです。また診断のためにも抜くことは必要です。 抜いてみないと、何が溜まっているのか分かりません。血液が溜まっているかもしれないし、もし、そこに脂肪が含まれていたら、関節のどこかに骨折がある証拠です。抜いた水が濁っていたらリウマチや感染、偽痛風なども疑われます。ですから、診断のためにも一度は抜いてみることが必要なんです。

よく、「大腿四頭筋を鍛えなさい」といわれますが、効果はあるのですか?

以前から膝が悪い人は、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の訓練が有効だといわれてきましたが、実はそのエビデンス(証拠)はありませんでした。2005年に、日本整形外科学会が行ったトライアルでは、膝が悪い患者さんに薬物療法だけを行うグループと、大腿四頭筋訓練だけを行うグループとに分けて、経過を比較してみると、どちらにも差がないことが分かりました。つまり、薬物療法と同じように大腿四頭筋訓練は有効だということです。
大腿四頭筋を鍛えれば、膝の関節が安定して痛みが少なくなるのだろうと考えられてきましたが、最近分かってきたのは、運動療法によって関節の中にある種の抗炎症作用を持つ物質が出てくるのではないかということです。このように大腿四頭筋訓練は、変形性膝関節症の患者さんに自信を持って勧められる治療法の一つです。

人工膝関節置換術が適応となる場合について教えてください。

保存療法を続けても症状が改善されず、関節の変形や痛みが強くなれば、最終的に人工膝関節置換術を考えます。具体的には、関節の隙間がなくなっているなどレントゲンで高度な変形が認められた場合、日常生活に支障を来すような痛みがある場合などです。デパートにショッピングに行きたい、友達とあるいは夫婦で旅行に行きたい、孫の面倒をみなくてはならない、ゴルフをしたいなど、いろいろな理由があってもいいと思いますが、とにかく痛みが原因で自分が望んでいることができない場合には、人工膝関節置換術を考えていいと思います。
そのほかに人工膝関節置換術の適応で大事なのは、患者さんの全身状態です。内科的な疾患がないかどうかきちんと調べた上で手術を行います。もちろん、本人の意欲と家族の協力も必要です。本人が手術をして歩きたいという強い気持ちを持っていなくては、術後に満足な成果が得られないでしょう。年齢を重ねるごとに誰でも体力も意欲も全身状態も低下しますし、同時に膝関節の変形も悪くなっても良くなることはないですから、手術を行うタイミングが重要になります。

人工膝関節置換術の適応

  • 1.レントゲンで高度な変形
  • 2.日常生活に支障をきたすような痛み
  • 3.本人の意欲
  • 4.全身状態
  • 5.家族の協力
  • 6.年齢

具体的な手術の流れとしては、関節の表面のすり減った部分だけを削り、中のきれいな骨の上に金属をかぶせ、軟骨の代わりに人工のポリエチレンで置き換えて、傷んだ関節を再び痛みなく歩けるようにします。人工膝関節置換術は、1996年から2005年の10年間に約3倍に増えており、現在では年間7万件の手術が行われています。手術に要する時間は90分程度、決して特別な手術ではありません。


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