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専門医インタビュー

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この記事の目次

「肩が痛い」、「肩が上がらない」という症状から「これは五十肩だな」と自己判断し、「しばらくすると自然に治るだろう」と楽観して病院にも行かず放置している方々がいらっしゃるようです。その痛み、本当に五十肩でしょうか?もしかしたらまったく別の原因からくる痛みかもしれません。どんな病気なのか、なぜ痛むのか、また痛みを取って機能を改善するためにはどのような治療法があるのか、さらに手術をする場合の注意点は?北新病院の末永直樹先生にお話を伺いました。

五十肩とはどのようなものでしょうか

五十肩というのは、50歳前後に多くみられる、肩に痛みが出て動かなくなる症状です。古くは1797年、太田方という福山藩の漢学者が書き記したものが残っています。「原因がなく痛みが出て、自然に治る」とあり、寿命が50歳の時代ゆえに、「長命病」とも呼ばれていたそうです。実際、1〜2年もすれば自然と治ることが多いです。

症状が急激に現れる時期は肩やその周辺が痛くて夜も眠れないと訴える患者さんが多くいます。その後痛みが弱まっても、関節包という関節を包んでいる袋のような部分全体が固まってしまうので、肩を動かす、上げる、延ばす、ひねるなどの動作ができなくなるのです。自分では肩を動かすことができないが、人から動かされると動くという場合は、五十肩ではありません。

しかし、五十肩の正式な定義はなく、除外診断といって、明らかな原因が見つからず、ほかの病気と断定できない場合に五十肩と診断されます。五十肩は耳慣れた言葉で身近な印象ですが、実際のところは、肩の痛みで腕が上がらないと訴える患者さんのうち、五十肩と診断される割合は約25%と言われています。4人に3人は別の病気なのです。

五十肩以外には、どのような病気が考えられますか?

残りの病気は大きく分けてふたつあります。ひとつは、肩からくる五十肩ではない病気。もうひとつは、肩以外からくる五十肩に似た症状が出るものです。肩からくる病気のなかでもっとも多いのが腱板断裂(けんばんだんれつ)です。また、石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)という病気もあります。石灰が腱板に沈着することによって、ある朝起きたら突然しびれたように痛くてまったく動かせなくなります。これも50歳前後が多いので五十肩と間違えやすいですね。この他、関節リウマチ、変形性肩関節症なども考えられます。

肩以外からくる病気もさまざまで、その多くは首の神経からくる痛みです。7つある頸椎のうち5番目の神経が圧迫されると肩が麻痺したように痛くなります。この場合は、首の動きで症状が変化するので原因が首だとわかります。また手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)など手首の神経の病気でも肩は痛くなります。そして狭心症など心臓に疾患があると、左肩に痛みが出ます。肩の痛みから検査を重ねた末、ろっ骨や肩甲骨のあたりに胃がんが転移していたことがわかったケースもありました。このように、五十肩ではないことのほうが多いのです。五十肩と自己判断せずに、まずは整形外科を受診してください。

肩の痛みで一番多いという腱板断裂について詳しく教えてください。

腱板とは、肩甲骨(けんこうこつ)から出る棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)という4つの筋肉が合わさって上腕骨につく腱のことをいいます。腱とは筋肉が骨に付着している部分のことです。

さらに、腱板のまわりには骨と骨をつなぐ強靭なヒモ状の靭帯(じんたい)があり、関節が安定した動きをするようにサポートしています。この靭帯は、加齢とともにコラーゲンが少なくなり、水分が抜けて厚く硬くなります。肌のコラーゲンと水分が少なくなって乾燥すると、皮膚がめくれてガサガサするのと同じようなものです。この靭帯の厚く硬くなった部分によって腱がこすれ、だんだんとほころび、やがて切れる。これが腱板断裂です。
40代からにみられる症状で、原因の95%は老化です。腱は4本あるので、1本2本と切れていても痛みがなく日常生活に困らない人も多いです。治療は、夜眠れないほどに痛い、腕が上がらなくて洗濯物を干せない、というように日常生活に支障が出る場合や、若くても野球やテニスをする人で痛みを感じる場合などに行います。

腱板断裂の治療法としてはどのようなものがありますか?

治療には<保存的治療>と<手術的治療>があります。保存的治療では、患部を温める温熱療法、鎮痛抗炎症剤(ちんつうこうえんしょうざい)の投与、経皮吸収型(けいひきゅうしゅうがた)の痛み止めの湿布、ヒアルロン酸やステロイド製剤の関節注射などを行います。
手術的治療では、断裂した肩の腱板を縫合(修復)し、痛みの原因のひとつである靭帯を切って骨を削ります。ここ15年ほどで手術は大きく進歩し、内視鏡による鏡視下腱板修復術(きょうしかけんばんしゅうふくじゅつ)を行うケースが増えました。キズが小さく、体に負担の少ない手術です。しかし腱板の断裂部の状態によっては、切開手術のほうがよいこともあります。そして、対象となる靭帯を切って骨を削ることで痛みがスッと治る症例も多くあります。

腱が切れたまま長く放置していると、本来筋肉で覆われて密閉されるべき骨頭に圧がかからなくなり、骨頭が大きくなる場合があります。このため削って元の大きさに戻してから縫合する必要があるのです。この場合、人工肩骨頭に入れ替えたほうがよいこともあります。

肩の人工骨頭置換術はどのようにして行われますか?そのメリットはなんでしょうか?

上腕骨の骨頭がかなり大きくなった場合は、むりに削って治すより小さめの人工上腕骨頭を入れたほうが、筋肉を縫いやすく、同時に必要に応じて軟骨の処置も施すことが可能です。特にご高齢の患者さんにとっては負担がより少なくすみます。

ただし手術後は、スムーズに動くようにリハビリをする必要があり、そのほうが早く治ります。もちろん、鉄アレーやマシンを使うようなハードなリハビリではありません。ゴム紐1本を持ってわきを閉じたり開いたりするような軽い負荷をかける程度です。

ところがこの小径人工骨頭置換術で筋肉も移植するような手術になると、リハビリに約9カ月から1年かかり、高齢者であったり、認知症があったりするために実行できないケースがあり、その際はリバース型人工肩関節と呼ばれる人工肩関節を用いることがあります。

通常の人工肩関節(主に変形性関節症や関節リウマチの治療に使用する)は、上腕骨側にボール状の骨頭があり、肩甲骨側が受け皿のような形状をしていることによって肩を動かせるわけですが、リバース型人工肩関節はその形状を逆にした人工肩関節です。つまり肩甲骨側に骨頭をつくり、上腕骨側に受け皿をつくるのです。

このリバース型人工肩関節は日本国内でも2014年春から臨床導入されたものですので、国内ではまだ長期的な結果が出ているものではありません。臨床導入で先行する諸外国では、ほとんどリハビリをしなくても肩関節を動かせるようになりやすいということが利点だと言われています。その反面、ひねる動作が改善せず背中に手が届かない、脱臼しやすい、骨と人工関節の間に血がたまりやすく化膿しやすいといった問題点もあるようです。感染症の発生リスクに関しても、現在のところ通常の手術に対して比較的高いことが報告されています。

いずれにせよ、その人に合った治療法を見つけることが大切です。かかりつけの医療機関とご相談のうえ年齢や症状に適したものを検討されるとよいでしょう。人工肩骨頭・人工肩関節の手術のメリットは、痛みが大幅に改善されることです。手術をされた患者さんの約9割が「痛みが一気になくなった」と喜ばれます。ただ、筋肉は使わないとどんどんやせてくるものなので、腱板が切れた状態で放置していると霜降り肉のようにサシ(脂肪)が入り、縫合手術がむずかしくなります。早めの受診をおすすめします。

手術後の注意点を教えてください。

人工のものが体内に入るということは当然、その部分には血流がなく、細菌が繁殖しやすくなります。手術中も細菌がつかないよう最大限の注意を払いますが、手術後も肩にキズを作らないなどの注意が必要です。また虫歯を作らない、できたらすぐ治療する、指先のケガや陥入ツメを放置しないなど、血行性の感染を防ぐことも大切です。そしてきちんと治るまでは、脱臼や再断裂に気をつけてください。

肘を曲げられる程度の荷物はよいですが、肘が伸びきるほどの重いものを片手で持たないようにしましょう。また転倒にも気をつけてください。高齢者にはないことでしょうが、ラグビーやアメフトなど、転ぶ確率の高いスポーツは、金属製の人工関節の近くで複雑骨折する恐れがあります。野球、バドミントンもおすすめしません。しかし「ゴルフとテニス、卓球はご自由に」と患者さんにはお話しています。テニスは肩を激しく使うサーブ以外、楽しんでください。水泳も800メートル程度なら大丈夫です。

肘を後ろにひく、肩の伸展(腕を後ろに伸ばす動作)なども避けたい動作ですが、半年ほど気をつければ、あとは日常生活を普通に送ることがリハビリになります。

肩に痛みを抱える方々にメッセージをお願いします。

整形外科の治療はまさに日進月歩。どんどん進んでいます。現在はいい薬とリハビリが開発され、必ずしも手術をするとは限りません。内視鏡の日帰り手術もあります。病院を怖がる患者さんがいますが、どうぞ安心してください。小さな痛みの裏に重大な病気が隠れている場合もありますが、早期に発見すれば簡易な治療ですむのです。症状を感じたら自己判断せずに、ぜひ整形外科医にご相談ください。


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