第20回 患者さんストーリー

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足の痛みが消えて20歳若返った気分。
牛の世話も野菜づくりも毎日が楽しいです。

渡辺 成甲さん高知県在住 85歳(手術を受けた年齢)
病名
変形性膝関節症(両足)
治療法
人工膝関節置換術
渡辺 成甲さん

高知県・佐賀山にある標高400mの自宅から825mのログハウス(民宿)まで、急勾配の山道をいまも1時間ほどかけて歩くことがあるという渡辺さん。朝起きてから牛の世話、野菜の手入れ、薪割り、料理と、夕方まで元気に働く姿は、とても88歳には見えません。ひざの手術前はあまりの痛さに「あとは這って動くしかない」とまで考えたそうですが、そのかけらも感じさせない軽やかな足取りです。牛舎、牧場、畑とお仕事の様子を拝見しながら、渡辺さんとお孫さんの智子(ともこ)さんにお話を伺いました。

働いて半世紀、ついに足腰が悲鳴をあげた
昭和58年に自ら開墾してつくった牧場で、現在も和牛やニワトリなどを飼育している

昭和58年に自ら開墾してつくった牧場で、現在も和牛やニワトリなどを飼育している

成甲(しげる)さん(ご本人) 私は大正13年生まれです。自分ではそんなに経ったとは思いませんが、88歳になりました。この土地は働き者の父が開墾したものでね、わたくしはその思いを受け継いで、土地を活かすことを考えて農業に明け暮れました。畑仕事と牛飼いの二本柱です。昔は、朝6時に起きて牛の乳を搾り、重い容器を抱えて凸凹道を歩いて行く。索道という輸送用のロープウェイのようなところに吊るしておくと、運搬する人が取りに来てくれる。空いた容器が戻ってきたらまた乳を入れる。その繰り返しです。荒れた道を歩いて行くのがつらくなって、高度成長期の頃、住民で運動をして補助金をもらって、100m、200mと少しずつ舗道が伸びました。山の急斜面ですから、畑もあちこちに離れていて、機械が使えない。全部手作業です。農薬もない時代ですから、山の草を刈って牛舎に敷いて、それで堆肥をつくって畑に運んで撒く。昔から有機農法をしていたわけですね。トマト、ピーマン、ナス、アキ豆……冷涼野菜をたくさんつくり、だんだん市場で売れるようにもなりました。

荒れ放題だった田んぼを開墾して5ヘクタールの牧場をつくったのが、昭和58年。乳牛だけでなく和牛を飼うようになって、最初は2頭、多いときには40頭ほどおりました。自宅から牛舎まで片道1時間です。それを行ったり来たり。休みは盆暮れくらいでほとんどありません。でもそれがあたりまえと思ってやってきました。嫌いな仕事はないですね。きつい仕事でも、やるとなったら嫌とは思わない。ただ、荷物を抱えて運ぶ作業も多いですから、長年続けるうちに、腰と足が悲鳴をあげました。

手術に踏み切れず、痛みをがまんした10年間
渡辺 成甲さん。

成甲さん ひざがチクリチクリと痛み出して、平成10年の暮れに病院に行くと、両変形性膝関節症と診断されました。月に一度、左ひざに溜まった水を抜いて、ヒアルロン酸の注射をしてもらいます。そうすると1週間くらいは調子がいいけれども、また痛くなる。また病院に行く。いろいろな売薬やサプリメントも試しましたが何も変わりません。鍼灸もやりました。一時的によくなりますが、まあ、騙し騙しです。治るということはなかったです。
平成13年には腰椎の手術をして、15年には左大腿骨転子部の骨折で手術しました。人工関節置換手術を知ったのは、17年ですか、主治医の先生から説明を受けました。模型をみせてもらって、こういう方法があると。しかし、スッとやってみようという気持ちにはならなかった。これで痛くなくなるかもしれないけれども、自分の関節を取ってしまって、「他人」が入るような感覚がどうしても受け入れられない。医大の先生にも説明してもらって、一般の人にもあれこれ聞いて、情報を集めました。実際に手術を受けて「よくなった」という人もいれば、「期待するほどではない」という人もいました。そしてやはり、「自分の骨がなくなる」というのが、いちばんの悩みでした。骨を削って足す、というのならまだしも、自分の関節を人工物と入れ替えるということに、どうにも抵抗があって……。
それでも受けようと決めたのは、痛みが限界だったからです。牛舎は息子夫婦も手伝ってくれていましたから、仕事を辞める必要はなかったけれども、だんだん横になっている時間が長くなってきました。あとは這って動くほかないのか? これはいかんと。

智子さん おじいちゃんは我慢強いので、当時両親の目には、立ったり座ったりするのがつらそうなものの、それほど痛そうには映らなかったらしいです。それでも、あれだけ迷っていたのに手術を受けようと決めたのですから、よほどの痛みだったのだと思います。

成甲さん 平成20年、息子と一緒に病院で再度手術の説明を受けまして、ようやく決心しました。それに賭けよう。先生に託そう。そう決めたら、早くしたい。いったん覚悟ができたら、気持ちも楽になりました。

智子さん 手術を受けるには限界年齢に近いと聞いて、わたしの両親は、全身麻酔の心配をしていたようです。「もう歳だし、痛いことをしなくてもいいんじゃないの? 手術してかえって体が動けなくなるのも心配」と。それでもおじいちゃんが受けたいというなら、そうしようと。

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