関節治療の専門医に聞いてみました!

第40回 人工膝関節置換術は健康寿命を延ばすための手術です
痛みは我慢せず、自力で歩くことを諦めないで!

ドクター
プロフィール
東京大学医学部卒業。JR東京総合病院、東京大学医学部付属病院などで人工関節を中心とする手術を多数執刀。2014年4月から現職に。中田病院での変形性膝関節症・股関節症の専門外来も担当
エリア 埼玉県タグ
この記事の印刷用PDF

現在、日本では変形性膝関節症の潜在患者は50歳以上で1000万人といわれています。一方で、厚生労働省の統計によると、関節疾患や骨折が原因で寝たきりになる高齢者は、脳卒中や心疾患と同様に多いと判明しています。膝の痛みを抱えている多くの人が、そのまま放置しているか、あるいは自己流の方法でごまかしていますが、適切な治療を受けない限り、膝の動きは徐々に制限され、悪化すると介護が必要になる場合もあるということです。「健康寿命を延ばすためにも、痛みは我慢しないで、専門医の診断を受けてきちんと治療してください」と語る、さいたま赤十字病院 整形外科の泉亮良先生にお話を伺いました。

中高年における膝の痛みや不具合の原因は何ですか?

正常な膝のX線
骨同士の間に隙間があります

変形性膝関節症のX線
軟骨がすり減り、
骨がぶつかっている

一番多いのは、加齢とともに軟骨がすり減って骨が変形してくる「変形性膝関節症」でしょう。それ以外にも、半月板の損傷や大腿骨の骨壊死、関節リウマチなどが原因で膝関節の具合が痛くなっている場合もあります。いずれも「膝が痛い」という症状は同じですが、レントゲンを撮ってみると、年齢が高い人ほど「膝の軟骨が薄くなっている」という変形性膝関節症の所見がみられます。軟骨はレントゲンには写りませんから、正常な膝関節であれば、5~6mmの隙間があるように見えるのですが、この隙間が少なくなり骨同士がくっついている状態になると、痛みが出ていることが予測されます。ただ軟骨は、年齢を経るにつれ、膝の内側の部分を中心にすり減っていく傾向があり、レントゲン上で関節の隙間が狭くなっているからといっても、全ての人に痛みが出るわけではありません。つらい膝の痛みを解決するためには、まずは専門医に相談し、レントゲン所見や痛みの症状などを総合的に診断してもらうことが第一歩になるといえるでしょう。

変形性膝関節症の治療法について教えてください。

膝の痛みを取る治療は、疾患名に関わらず共通しています。症状が比較的軽度の場合は、痛み止めやヒアルロン酸の膝関節内への注射、筋力トレーニングなどの運動療法など、保存治療が治療の基本になります。中でも、運動療法は重要です。膝関節を守り支えている筋肉がしっかり機能していれば、関節の負担を減らすことができるため、膝の痛みが出始めのころは、膝の上部にある太ももの筋肉を鍛えるような運動が効果的です。なお、骨や関節の不具合は、医師が治すことができますが、筋力を鍛えるためには患者さんの努力がどうしても必要になります。自己流で運動した結果、症状を悪化させてしまう場合もありますので、患者さんがやる気を失わないように、どんなトレーニングをすればいいのか、励ましながら指導をしています。

大腿四頭筋のトレーニング

太ももに力を入れて、膝下の枕を5~6秒間押しつぶします(左)
手で椅子を掴んで浅く腰かけ、膝を伸ばして5~10秒間キープします(右)

このような保存療法を続けても膝の痛みが治まらず、レントゲン上でも明らかに軟骨が消失していて、関節の変形が進んでいる場合は、人工膝関節置換術を治療の選択肢として考えていただかなければなりません。特に、「歩くと膝が痛くなるので、長い距離を歩くのが億劫になった」、「痛みのために夜も寝られない」という状態で困っている人には、できるだけ患者さんにあった時期に人工膝関節置換術を受けていただくよう、勧めています。

人工膝関節置換術とは、どのような治療法でしょうか?

人工膝関節置換術は、「歯の治療」をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。虫歯は薬では治りません。悪い部分を削った後に、人工の歯を被せるのが主な虫歯の治療ですが、人工膝関節置換術も同様に、損傷した膝関節の骨の表面を削り、人工的な関節を上下に被せて置き替えます。以前は、人工膝関節置換術の対象者は65歳以上といわれていましたが、今は人工関節の長期耐用性が認められていますので、高齢になるまで待つ必要はなくなりました。基本的に、人工関節は一生モノです。必要な人にあった時期に手術を行うのがベストだと考えています。
なお、高齢者の中には、人工膝関節置換術に対して「手術をすると歩けなくなる」という誤ったイメージを抱いている人がいます。また、地域性にもよると思いますが、手術にアレルギーを持っている人もたくさんいます。しかし実際は、以前は歩くこともままならなかったのに、人工関節のおかげで近所に買い物も行けるようになった、旅行もできるようなったと喜んでいる人が、たくさんいらっしゃいます。最近では、市民公開講座や交流会などといった、正しい情報を得る機会も増えていますので、まずは怖がらずに、医師の説明を納得がいくまで聞いてみてください。


記事の一覧へ

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

ページの先頭へ