関節治療の専門医に聞いてみました!

第94回 ここまで進歩している人工股関節(インプラント)と手術方法
~患者さんにとって適切な手術時期を逃さないために~

ドクター
プロフィール
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、身体、障害者福祉法指定医、日本体育協会公認スポーツドクター
エリア 東京都タグ

人工股関節置換術を受けるときに、いつ手術を受けるのがよいのか、タイミングを決めるのはなかなか難しいものです。そこで今回は、患者さんにとって適切な手術時期を逃さないために、術後の生活に大きく影響する人工股関節(インプラント)と手術方法がどのくらい進歩しているのか、また、具体的にどのように手術が行われるのか、世田谷人工関節・脊椎クリニック 院長の塗山正宏(とやま まさひろ)先生に教えていただきました。

人工股関節置換術を受ける適切なタイミングはありますか?

人工股関節置換術は、変形性股関節症の治療法の一つで、代表的な手術方法です。病気によってすり減ってしまった軟骨や変形してしまった骨を取り除き、人工股関節(インプラント)に置き換えることで痛みが改善し、生活の質の向上を目指す手術です。股関節の痛みのために、歩くことや日常生活などが思うようにできず、保存療法(日常生活の見直しや運動療法、薬物療法など)を行っても痛みが改善しない場合や、股関節の変形がかなり進んでいる場合は、人工股関節置換術を考えたほうがいいでしょう。

人工股関節置換術を受ける具体的な時期については、痛みや変形といった症状の程度や日常生活でどのくらい不便が生じているのか、仕事の関係や年齢など様々な要素を考慮しながら、患者さんの希望に沿って決めています。以前は、人工股関節の耐用年数が10~15年くらいといわれていましたので、再置換の可能性を考えると、60歳以上でないと手術に踏み切れないということがありました。しかし、現在の人工股関節は性能が格段に良くなり、耐久性も20~30年以上機能することが期待されています。そのため、最近では、50歳代でも人工股関節置換術を行うことが一般的になってきています。

人工股関節(インプラント)はどのように進歩しているのですか?

人工股関節というのは、大腿骨に埋め込み人工股関節の土台となる「ステム」、大腿骨の骨頭の役割を果たす「ヘッド」、股関節の軟骨の役割を果たす「ライナー」、骨盤に設置し、ライナーの受け皿となる「カップ」の4つの部品で構成されています。

以前は人工股関節の耐久性を心配して、手術をできるだけ待つという時代もありましたが、現在はかなり人工股関節の性能が向上しています。

たとえば、この中でライナーはポリエチレン製が多いのですが、以前は、ヘッドとの摩耗によって出る「摩耗粉」が原因となって骨が溶ける「骨溶解」が起き、そのために人工股関節が緩んでしまうおそれがありました。それが現在では、体内での酸化を防ぐビタミンEを配合したポリエチレン製のライナーや、新しい表面処理技術を施したライナーなどが開発され、摩耗による問題がかなり改善されています。

さらに、製品によっては、自分の骨をより多く温存できる短いサイズのステムや、構造的に脱臼しにくい人工股関節があったり、頑丈なセラミック製の大腿骨骨頭(ヘッド)が開発されたりしています。

このように、人工股関節自体の進歩によって、以前より長く機能する可能性が高まっていますから、再置換をおそれて手術を先延ばしにするという必要はあまりなくなっています。

人工関節を自分で選ぶことはできるのですか?

患者さんご自身が選ぶことはまずありません。患者さんの股関節や骨、筋肉の状態、生活習慣などに合わせて、安心・安全な製品であることももちろん考慮に入れ、充分に検討しながら、患者さんにあった人工関節(インプラント)を医師が選択します。

現在は、人工関節置換術の歴史が日本より長く、長期使用成績など豊富なデータが揃っている海外製品に加えて、国内製の人工関節もあり、種類が豊富です。その中から個々の患者さんにあった人工関節を選ぶことができるため、人工股関節置換術は年齢などによる制限はほとんどなく、体力があり、大きな合併症を持っていなければ、たとえ90歳以上の方でも、あるいは骨粗しょう症などで骨がもろくなっている方でも、その方に合った人工関節を選ぶことで手術を受けられる可能性があります。

手術を先延ばしにし過ぎると、どのような問題がありますか?

股関節の変形が進行していった場合、股関節の周りの筋肉や骨が弱くなり、歩く力が落ちていきます。それによって股関節の動きがさらに悪くなるという悪循環が起こる可能性があります。股関節の状態が悪ければ悪いほど、手術後の回復力やリハビリの期間に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。

それに、片方の股関節だけ悪いという場合、どうしてももう片方の健康な足に負担がかかってしまいます。その状態が長期間に及ぶと、健康な方の足まで悪くなり、気づいたら両方の股関節が変形していたということも起こり得ます。

さらに、股関節の状態が悪いと、腰にも膝にも悪影響が及び、そのために歩行や運動が難しくなると肥満になって全身の健康にも良くありません。その意味で手術を受ける時期というのはとても重要です。担当の先生とよく相談して、患者さんにとってベストなタイミングで手術を受けることを考えたほうがいいでしょう。

実際に、手術はどのように行われるのですか?

(病院によって変わりますので、あくまでも一例です)
<手術前>
手術の日程が決まったら、レントゲンやCTを撮影し、人工関節の種類や手術方法など、入念に手術の計画を立てます。

<手術の流れ>
手術室に入った後、まずは患者さんの氏名と手術部位を確認してから、麻酔をかけます。麻酔は病院によって異なりますが、患者さんの全身状態や合併症の有無などによって脊椎麻酔、硬膜外麻酔、全身麻酔など、その患者さんに適した方法で行われます。
次に、手術中の感染症を防ぐためにしっかりと手を洗い、手術部位以外を清潔なシーツで覆うなど、徹底的に清潔を保持し、再度、患者さんの氏名と手術部位を確認して、手術が始まります。

<人工股関節が設置されるまで>
まず皮膚を約8cm程度切開します。股関節に到達したら、股関節を包んでいる関節包を切開し、大腿骨の骨頭を切除します。次に変形している骨盤内を削り、カップとライナーを設置します。その後大腿骨の骨の中を削り、ステムとヘッドを設置します。

人工股関節の4つの部品を設置し終えたら脚の長さを確認し、さらに、簡単に人工股関節が脱臼したりしないかどうか、人工股関節の動きを何度も念入りに確認してから皮膚を縫合して終了します。

<手術後>
レントゲン撮影を行い、人工股関節が適切な位置で設置されているかどうかを確認してから麻酔をさまします。

トータルの手術時間は、一般的には2~3時間くらい。執刀時間は1~2時間半くらいが平均的です。

私の場合は、術前計画に時間をかけて綿密にプランを立て、「最小侵襲手術(MIS=エム・アイ・エス)」と呼ばれる手術方法で取り組むことで、執刀は30分~1時間くらいと短い時間で終わるように努めています。手術時間が短いということは、麻酔の時間が短縮でき、傷口を開いている時間も短いということなので、感染症のリスクや出血量の低減につながります。患者さんの体への負担を考えると、手術時間を短縮することはとても大事なことだと思います。

手術方法も進歩しているのですか?

人工股関節置換術が一般的に行われるようになって50年近く経ちますが、人工関節と同様に手術方法も日進月歩で進歩しています。

たとえば、「最小侵襲手術(MIS=エム・アイ・エス)」は、患者さんの体への負担を小さくするために、できるだけ傷口を小さくし、 筋肉などをなるべく切らずに温存することをめざす手術方法です。 私の場合は、主に「前方アプローチ」という方法で、股関節の前側の皮膚を平均8cm程度切開し、筋肉を切らずに、その間から進入して行います。 筋肉を切らないので縫合する行程が省け、手術時間の短縮につながります。筋肉を温存することによって、手術後の疼痛が少ないことや、歩行の回復がスムーズに進むことが多く、入院期間の短縮も見込めます。また、人工股関節の脱臼を防ぐための動作制限もほとんどありません。

MIS法は患者さんにとってメリットのある手術方法ですが、必ずしも全員が受けられる手術方法ではありません。

どの手術方法を受けられるのかについては、股関節の変形具合や体格、手術歴などによって違います。病院によっても行っている手術方法が違うので、担当の先生によく話を聞き、術後どのような生活を望むのかを伝えながら、相談することが大切です。

人工股関節置換術を受けることを迷っている方に向けて、メッセージをお願いいたします。

今までできていた仕事や旅行などの趣味が、股関節の痛みによってできなくなってしまったためにストレスを抱えている方が多くいらっしゃいます。適切な治療を受けるためには、まずは、股関節のことを熟知している専門医を受診して、自分の股関節がどのような状況になっているのかを知ることが大切です。

人工股関節置換術は、必ず受けなければいけないというわけではありません。まずは保存療法を行って、それでも痛みが取れず、日常生活に支障がある場合に、最終手段として選べる治療法だと思ってください。

とはいえ、昔に比べて、インプラントと呼ばれる人工関節の性能も手術方法も格段の進歩を遂げ、整形外科の手術の中で人工股関節置換術は一般的な治療法になっています。それに伴って、その人の関節や骨、筋肉などの状態に合った人工関節と手術方法を選ぶということも、術後の日常生活への影響を少なくするために大変重要になっています。

痛みのためにやりたいことを我慢して、生活の質を下げてしまうのはもったいないことです。どのような人工股関節置換術を受けることができるのか、担当の先生や専門医とよく相談をして、少しでも痛みのない、有意義な人生を送っていただきたいと思います。


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