関節治療の専門医に聞いてみました!

第149回 「手術をしなければ歩けなくなる」なんて心配しなくても大丈夫ですよ

ドクター
プロフィール
1993年 産業医科大学卒業、2015年 現職に。専門分野:人工関節、骨粗鬆症関節リウマチ。資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本リウマチ学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本骨粗鬆症学会評議員、日本骨形態計測学会評議員
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田中 伸哉 先生

変形が進んだ膝関節の機能を回復

膝関節の構造

膝関節の構造

前述したように、膝でスタビライザーの役目をする半月板は年齢とともに傷んでゆるんでしまいます。そうすると、関節が不安定になり、関節の表面をおおっているガラスのようにつるつるな軟骨がこすれ始めます。ついには、軟骨がなくなって、骨と骨がぶつかるようになります。膝関節には、痛みもなく曲げ伸ばしができ、安定して体重を支えられるという機能がありますが、膝関節症の患者さんでは、痛みと不安定感のために日常生活に支障をきたすようになります。つまり、膝関節が機能不全をおこしているのが、変形性膝関節症や、関節リウマチによる膝関節症なのです。
このように機能不全を起こし回復の見込みのない膝関節を人工物に置き換えるのが、人工膝関節置換術です。もちろん、若い頃の健常な膝ほど優れた機能はありませんが、痛みと不安定感は解消されます。
変形性膝関節症の患者さんは、800万人以上いるといわれています。人工膝関節置換術は、年間で8万件ほど行われていますから、患者さんの約1%が、人工膝関節にしているということになります。この数は、年々増えていると思われます。

ADL を高め、QOL の高い生活をするためのもの

変形性膝関節症と診断されたからといって、必ず人工膝関節が必要になるというわけではありません。わたしが埼玉医大に赴任してからずっと、日常生活に支障なく、保存療法だけで経過を診ている患者さんも多くいらっしゃいます。あわてて人工関節にすることはないのです。どれほど変形が進行してしまったとしても、手術は可能です。保存療法を続けているけれど、それでも日常生活に支障が出てつらいなら、手術をしましょうというのがわたしの基本的な考え方です。
変形性膝関節症は、命にかかわる病気ではありません。人工膝関節置換術は、ADL(日常生活動作)を改善し、QOL(生活の質)の高い生活をするためのものです。「多少痛みはあるけれど、家の中でじっとしているだけなので困っていません」、「たまに注射をするくらいで日常生活に支障はありません」という人には、人工膝関節置換術は勧めません。
酷い関節変形が原因で日常生活に支障を来たしているような患者さんは、痛みをこらえて頑張る必要はないと思います。手術をしなければ歩けなくなるなんてことは滅多にありませんが、近い将来確実に手術が必要になるのであれば、我慢している時間がもったいないからです。関節症が酷く、「膝の痛みさえなければ、ハッピーな生活を送れるのに…」、と考えていらっしゃる患者さんには人工膝関節置換術を勧めます。
膝関節の変形は、40代、50代から始まります。40代でもかなり変形が進んでいる人もいます。今は90歳近くまで生きる時代です。ところが人工関節の寿命はせいぜい30年程度です。つまり、ADLを損なうことなく、高いQOLを維持して生活するためには、年齢や痛みの程度、変形の程度、患者さんの求める生活を考慮して、長いスパンで治療計画を建てなければいけないのです。

手術の流れは?

端坐位での膝関節屈伸運動 膝関節屈伸運動

端坐位での膝関節屈伸運動と膝関節屈伸運動

入院前に、心臓や腎臓の機能、血糖値、貧血の有無、下肢の血栓の有無を検査します。例えば、腎機能がおちていて、手術時の血圧の変動などが原因で、腎不全をおこす危険性があるような患者さんであれば、腎臓内科と麻酔科にあらかじめコンサルトし、適切な状態で手術に臨めるよう準備します。
リハビリは手術後2日目から開始します。まず、膝の曲げ伸ばしや、筋力をつけるなどの訓練を開始します。傷は2週間もすれば治りますが、当院では今のところ4週間まで入院できます。ある程度自信をもって日常生活が送れるようになってからの、退院ですが、体力的にまだ不安だという場合は、回復期リハビリテーション病院に転院することもあります。
87歳で両側同時に人工膝関節置換術を行った男性が1名、女性が1名いらっしゃいます。男性はまだ旅行を続けたいという希望がありました。また、女性は踊りの先生を続けたいという希望がありました。健康上に問題がなければ、この年齢でも受けることができる手術です。
人工膝関節置換術を行う患者さんの半数くらいは、両側の膝を同時に手術しています。当院の周辺では、我慢強い方が多いようで、両膝とも関節症がかなり進行した状態でいらっしゃる方も多いです。いずれ、確実にもう一方の手術が必要になるのであれば、同時に両膝を行うほうが、時間的にも金額的にも患者さんの負担は少なくなります。


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