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専門医インタビュー

人工股関節の手術で導入が進む「ポータブルナビゲーション」手術方法が進歩しています

  • 片岡 祐司 先生
  • 社会医療法人愛生会 総合上飯田第一病院 常務理事
  • 052-991-3111

愛知県

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日本整形外科学会 整形外科専門医。名古屋大学医学部卒業。2000年に同院整形外科副部長に就任し、2013年に人工関節・関節鏡センター長、2015年に院長、2019年より同会理事長就任。

この記事の目次

人工股関節の手術は年々増え、年間およそ7万件にのぼります。これまでよりも手術方法や人工関節が進歩してきているだけでなく、近年では「ポータブルナビゲーション」の導入も進んでいます。手術の進歩は患者さんにとってどのようなメリットがあるのか、社会医療法人愛生会 総合上飯田第一病院 常務理事の片岡祐司先生に教えていただきました。

人工股関節はどのようなものなのですか?

人工股関節の構造

人工股関節の構造

人工股関節置換術は、変形性股関節症などの患者さんに対して行われている手術で、日本国内ではおよそ7万例以上行われています。人工股関節は、大腿骨側の金属製のステムとセラミックや金属でできたボール、寛骨臼側には金属製のカップにポリエチレン製のライナーが埋め込まれて構成されています。その原型は1960年代にイギリスのチャンレー先生が考案したものといわれています。

人工股関節置換術にはどのような難しさがありますか?

後方アプローチ

人工股関節を正確な場所に設置できればその性能を発揮しやすくなるので、特にカップを設置する位置は重要です。
またカップの設置角度は、外側に45°、前方に15°開いているのが良いといわれています。
これまでは寛骨臼にその角度でカップを設置するために、骨を削る時に手術器具に専用の角度計を接続するなどして角度を計測していました。従来から行われている後方アプローチ(お尻側から切開して手術する方法)は、患者さんが横向きに寝た状態で手術が行われます。身体の位置が変わらないように固定しますが、手術中わずかでも身体の位置が変わってしまうと正確に角度を計測できません。そのため、患者さんの体位が変わっていないかを確認するための様々な角度計も考案されていました。現代のナビゲーションと比べると大変アナログな方法だったので毎回正確に角度を計測することは難しく、医師の技術や経験に頼る部分が多くありました。

カップの設置場所が不正確だと、患者さんにはどのような影響がありますか?

骨折

人工股関節の脱臼

カップが不正確な場所に設置されていると懸念されることが2つあります。
1つ目は脱臼です。あまりにも不正確な場所にカップが設置されていると、脱臼を引き起こすリスクが高まります。いちど脱臼すると脱臼を繰り返してしまうことがあり、そのようなケースではもう一度手術が必要になる場合があります。
2つ目は人工関節の寿命の問題です。カップの中にあるライナーが均一にボールを覆えていないと、ライナーの一部に過度な負担がかかるので、早期に摩耗することになります。そうなると新しい人工関節に入れ替える手術が必要になる場合があります。
このようなリスクを減らすためには、正確な位置や角度にカップを設置することが大切になります。

正確な位置や角度にカップを設置するための技術的進歩はないのでしょうか?

正確な角度や位置にカップを設置するために、ナビゲーションシステムが開発されてきました。ナビゲーションシステムは、手術中に術者がリアルタイムでカップを設置する位置や角度などを数値として確認できるようにした装置です。しかしナビゲーションシステムは大型のものが多く、非常に高価なため導入している病院が限られていました。そこで比較的安価な小型のポータブルナビゲーションが登場し、現在では幅広い病院に導入されつつあります。小型でも大型のものと同様に、人工関節を設置する正確な角度を手術中に確認できます。
ナビゲーションの導入により、これまでは医師の経験などに左右されていた部分の改善が期待できるので、脱臼リスクの低減や長期の人工股関節の耐用性が期待できます。また近年は、筋肉などをできるだけ傷つけない最小侵襲手術(MIS)が行われるようになっています。しかしMISでは小さく切開するため、手術中に十分な視野が確保できず、従来の計測方法では患者さんの股関節の状態に合った正確なカップの位置や角度などを確認することが難しいです。MISを実施する際にナビゲーションシステムを適用すれば、患者さんの身体にできるだけ負担をかけずに正確な手術を行うことが期待できます。

ポータブルナビゲーションによって、今後どのようなことが期待できますか?

比較的導入しやすいポータブルナビゲーションを使うことで、幅広い医師が手術の熟練度の影響を受けず正確な手術を行えることが期待できます。また、その経験が多くなると、ポータブルナビゲーションを使わなくても感覚的に正確な角度が分かるようになり、医師のスキル向上にもつながっていくのではないかと期待しています。
しかし、ポータブルナビゲーションはあくまでも人工関節を設置する位置や角度を正確に確認するための道具であって、実際に骨を切ったり削ったりして人工関節を設置するのは医師自身です。角度が正確であっても、カップを骨に十分に埋め込ませないと脱臼リスクが高まります。骨の固さは一様ではないので、正確に骨を削ることなど医師の経験が求められるものもあります。デジタル技術を使いつつ、手術医師の技術を高めることで従来よりも正確な手術が行え、患者さんの満足度向上にも貢献できるものと思います。

股関節の痛みに悩んでいる方にメッセージを

専門医に相談

人工関節の手術を行った患者さんの中には、35年間何の問題もなかったという方もいらっしゃいましたが、一生正常に機能するという保証はありません。しかし、手術方法は進歩しており、その進歩が脱臼率の低減や長期耐用性などにつながっているという報告があります。
股関節の痛みのせいで色々と悩んだり不安になったりすることがあれば、専門医にお気軽にご相談ください。現在のご自身の状態や治療方法、日常生活で気を付けたほうが良いことなどが分かれば、安心感につながっていくのではないかと思います。ご自身の大切な身体にとって、納得できるより良い治療法を⾒つけてほしいと思います。


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