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専門医インタビュー

高齢期を痛みと共に過ごすのはつらいもの。違和感は早めに相談を

この記事の専門医

宮城県

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日本整形外科学会、日本股関節学会(評議員)、日本小児股関節学会(評議員)東北整形災害外科学会所属。整形外科専門医

この記事の目次

変形性股関節症になった場合、治療法にはどのようなものがあるか教えてください。

保存療法 投薬をしながら、筋力強化をしたり、重いものを持つことを控えたり、長時間の歩行を少なくする
外科療法

骨切り術
・年齢が50歳未満
・関節がそれほど傷んでいない場合
関節近くの骨を切り、関節の向きを矯正したり、残っている関節軟骨が荷重部にくるように修正したりする手術

人工関節置換術
・年齢が60歳以上
・症状の改善が見られない場合
傷んだ股関節を取り除き、人工的なものに置き換えて、正常な動きを取り戻す手術

変形性股関節症と診断された場合、まずは日常生活での股関節への負担を軽減しながらの「保存療法」になります。保存療法は、投薬をしながら、筋力強化をしたり、重いものを持つことを控えたり、長時間の歩行を少なくするといったことを基本とします。そのためには、買い物やゴミ出しを手伝ってもらうなど、家族の協力も不可欠です。筋力低下を抑えるため、ブールでの治療が有効な場合もあります。以前患者さんの中には、ご主人が毎日箸以上の物を持たせない程のサポートをしていただいたおかげで、私たちの想像以上に進行を遅らせた人もいました。ただし現状変形があまり進んでいなくても骨格の構造上に弱点があることに変わりはないので、根本的な治療には手術が必要になってきます。
外科療法の一つとして、骨盤の「骨切り術」があげられます。これは、関節がそれほど傷んでいない場合に行われる治療法で、関節近くの骨を切り、関節の向きを矯正したり、残っている関節軟骨が荷重部にくるように修正したりする手術です。骨切り術は変形の進行を完全に止める保証はないのですが、普段から股関節に負担をかけないよう気をつけることで、できる限り変形を抑えることはできます。ただし股関節の変形の程度や、年齢が50歳未満など手術を受ける上での条件もあり、長い間痛みを我慢しているうちに手術のチャンスを逃してしまう場合もあります。治療の選択肢を狭めないためにも、受診はできるだけ早くしてほしいと思います。
また薬を服用し、注意した生活を送っても症状の改善がみられない場合、年齢が60歳以上であれば「人工股関節置換術」を考えることになるいます。この手術は傷んだ股関節を取り除き、人工的なものに置き換えて、正常な動きを取り戻すというものです。保険が適用されますし、日本では年間5万件以上行われている身近な治療法です。術後成績も安定しており、人工股関節の材質向上により10年耐久率は95%以上です。このように人工股関節の耐用年数が延び、手術のリスクも低減したことで、年齢による手術制限はなくなりつつあります。

人工股関節置換術の手術前後の流れを教えてください。

4方向から撮影した人工股関節置換術後のX線写真。
手術の正確さが耐久年数に影響を及ぼすため、このように入念に設置角度がチェックされます。

基本的には、まずは整形外科を受診していただき、そこからの紹介で専門医を受診することになります。専門医の元では、病状のチェック後、変形やレントゲン検査の結果などを股関節症判定基準に則して判断し、手術が必要であれば入院予約をします。手術に備えた検査は約1カ月前に行います。手術には、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓・肺塞栓)や術後感染症、神経・血管障害など少数ながら合併症のリスクもありますので、入念に検査をし、これらのリスクについて患者さんに説明し、事前に納得いただいた上で、手術を受けるか判断していただきます。また人工股関節置換術の手術は出血量が約400ml弱ですが、人によっては輸血が必要な場合もあります。最近では手術の前に自分の血液を事前採血(自己血採血)し、輸血に用いる方法が一般的です。
最終準備を含めた入院は手術の前の週からです。実際の手術時間は、60分程度です。術後は翌日からすぐに歩く練習が始まります。手術部分の痛みやツッパリもありますが、おおむね1週間後くらいにはT字杖で歩行できる状態になり、約3週間後には杖は必要ながら歩いて退院できます。退院後1・2カ月後と、6カ月後、1年後には経過観察を行いますが、一般的に手術後約4カ月頃で杖は不要になります。

人工股関節置換術のリハビリは具体的にどのようなことを行うのですか?

患者さんが日常生活に不自由を感じずに過ごすためには、股関節が90度まで曲げられることが必要です。そのために、術後すぐに曲げ伸ばしの練習を開始します。具体的には、担当の理学療法士が、手術前の基本動作や日常生活動作、筋力訓練などをチェックし、手術翌日には同じ動作がどこまでできるかを再評価します。立った時にどちら側に体重がかかっているかという下肢加重検査や、知覚的脚長差と多角的脚長差などの検査を経て、立位・荷重歩行訓練をスタートさせます。
訓練の内容は、関節の可動域訓練、歩行訓練、入浴や正座から立ち上がる訓練など、日常生活動作まで行います。このような訓練を通り、脱臼などをしない生活動作を身につけていただくことが重要です。


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