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専門医インタビュー

いつまでも元気に歩くために ~股関節の痛みと人工股関節置換術~

この記事の専門医

神奈川県

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昭和50年東京慈恵会医科大学医学部卒
整形外科専門医、日本手外科専門医、日整会認定リウマチ医、日整会認定スポーツ医、日本リハ学会認定臨床医、日体協スポーツドクター

この記事の目次

手術療法にはどのような治療法がありますか?

保持療法では効果が上がらない、痛みを取ってよりスムーズな動きを取り戻したいときには手術療法を選択します。症状が比較的軽度で自分の関節がまだ使える場合は「骨切り術」を、軟骨が完全にすり減ってしまった末期の状態では、壊れてしまった関節を人工の関節に取り替える「人工股関節置換術」を行います。骨切り術にはいろいろ方法があり、股関節の被りが足りない場合は、臼蓋形成術(たな形成術)や寛骨臼回転骨切り術、キアリー骨盤骨切り術などを、大腿骨頭の向きを矯正して関節の適合性を改善する場合には、大腿骨内反骨切り術や外反骨切り術などを行います。以前は、60歳以上の人には人工股関節置換術を、それより若い人には骨切り術を行っていました。ところが、骨切り術では痛みを取り除くことができても、変形が進行した股関節の可動域はあまり改善されません。術後の回復にも時間がかかる一方で、人工関節の性能や耐久性が上がったことから、現在では40代後半~50代の人でも人工股関節置換術を検討するようになりました。また、一度筋力が落ちてしまうと手術を行っても動きがなかなか元に戻らないため、痛みが強ければ筋力が落ちる前に人工股関節置換術を行うケースも増えています。

棚形成術
骨盤から板状の骨を採骨して、足りない臼蓋の部分に移植する
寛骨臼回転骨切り術
骨盤の臼蓋の一部を球状に切り、回転させて臼蓋を作る
キアリー骨盤骨切り術
臼蓋の部分で骨盤を水平に切り、横にずらして臼蓋を作る
大腿骨内反骨切り術
外反骨切り術

大腿骨頭の下の部分をくさび状に切り取り金属プレートで骨を固定して、大腿骨頭を内側に傾けたり(内反骨切り術)、外側に反らせたり(外反骨切り術)して、大腿骨頭の向きを矯正する

人工股関節置換術について詳しく教えてください。

イラスト

人工股関節の一例

股関節が壊れて正常な機能が損なわれたときには、人工股関節置換術を行います。人工股関節の基本構造は大腿骨側とそれを受ける骨盤臼蓋側からなっており、大腿骨頭だけを入れ替える人工骨頭置換術と臼蓋部分も含めて全て置き換える全人工股関節置換術があります。手術時間は1時間半~2時間程度で、入院期間は2週間~3週間が一般的です。手術は、皮膚や筋肉をできるだけ切らずに小さな侵襲で行う方法が主流になっています。組織の損傷を少なくすることで回復スピードが上がり、術後の脱臼も起こりにくいというメリットがあります。また、コンピュータを用いた術前計画や術中にナビゲーションシステムなどを使用する施設も出てきており、手術を取り巻く環境も進歩しています。ただ他の手術と同様に、人工股関節置換術にも合併症のリスクが伴います。手術時の感染を防ぐためには様々な対応策が取られていますが、術後の感染症や脱臼、人工関節の緩みといった人工関節特有の合併症もあるので、術前にしっかとと説明を聞き、十分に理解した上で手術に臨んでいただければと思います。

人工股関節置換術はどのような症状の人が対象になるでしょうか?

人工股関節置換術を勧めるのは、レントゲンでみて関節の変形が非常に進んでいる、保存療法を続けているが症状が改善されない、痛みが強くてスムーズに動くことができない、生活に支障が出ているなどの場合です。手術時年齢が下がっていることもあり、仕事や趣味を続けたいなど、以前と比べて患者さんの期待や求めているものも変わってきました。ただ、性能が良くなったとはいえ人工関節はあくまでも「人工物」です。長く良好な状態を保つための注意点や、若い年齢で手術をした場合には将来的に人工関節を入れ直す可能性もあることを事前に説明しています。また、手術が上手くいっても人工関節を支える筋力が十分でなければ、期待していた動きを取り戻すことはできません。回復の度合いは術前の筋肉の状態に左右されるため、術後は患者さん一人ひとりの状態に合わせたリハビリテーションが大切です。

リハビリテーション室

なお、いまや年間5万件も行われている人工股関節置換術ですが、受ける人が増えている中で課題もいくつかあります。例えば、使用したインプラントの機種やメーカー名、術後の経過が記録として残るような全症例の登録制度は日本にまだありません。リハビリも入院中の指導だけでなく、退院後の生活状態や運動まで含めてテーラーメードで丁寧に様子をみていくことが理想です。また、手術を受けたくない患者さんへの対応も、保存療法を熱心に指導する施設はまだ少なく、残念ながら今の段階では十分とはいえないでしょう。股関節治療の発展のためには、患者さんの立場をより一層考えた環境づくりが課題だと考えています。

退院後の生活や運動などで注意点はありますか?

患者さんの中には、人工関節にしたらあまり動きまわらずに大事にしなくてはならないと思う人がいます。しかし、手術は患者さんの「生活の質(QOL:quality of life)」を上げてより充実した生活を送るための手段ですので、これまで続けてきた活動や自分のやりたいことを我慢するのであれば意味がありません。むしろ適度な運動や体操は、筋肉・骨・関節などの運動器の機能を維持し健康寿命を全うするためにも、継続的に行ってください。ただし手術直後には、あまり激しいスポーツや腰をひねる動作、股関節に直接負担がかかるような激しい動きは脱臼を引き起こすこともあるので避けましょう。退院後、推奨される運動としては、水泳や水中ウォーキングが一番です。また、テニス(ダブルス)、ウォーキング、ゴルフなども問題ありません。逆に行ってはいけないスポーツとしては、シングルテニス、スカッシュ、ジョギング、ランニングなどがあげられます。退院後にスポーツを新たに始める場合は、事前に主治医とよく相談してください。

行ってもよいスポーツ 経験がある場合
行ってもよいスポーツ
行ってはいけないスポーツ
ゴルフ ウォーキング サイクリング
テニス・ダブルス ダンス 速歩
ハイキング 緩斜面スキー ボーリング
衝撃の弱いエアロビクス 水泳
船漕ぎ トレーニングマシーン
スキー滑降
クロスカントリー
アイススケート
ローラーブレード
ピラティス
ラケットボール テニス・シングル
アメリカンフットボール サッカー
バスケットボール スカッシュ
衝撃の強いエアロビクス ジョギング
ソフトボール スノーボード 野球
出典:The Open Sports Medicine Journal,2010,Volume4

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