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人工関節とは

コラム25 市民公開講座「ひざ関節の痛みと病気、治療法」報告記

会場の様子

2015年7月4日(土)、静岡県袋井市の月見の里学遊館で、市民公開講「ひざの健康セミナー ~ひざ関節痛にお悩みの方へ~」が開かれました。講師は、新都市病院・副院長の坂田悟先生、「ひざ関節の痛みと病気、治療法」について、分かりやすくお話しいただきました。同病院理学療法士・岩里大樹先生による「人工関節置換術後のリハビリテーション」についてのお話とともに、その内容の要旨をまとめて紹介します。

健康寿命を延ばす、注目はメタボからロコモへ

少し前までは、メタボ(メタボリックシンドローム)が話題でしたが、最近は日本整形外科学会が唱えるロコモ(ロコモティブシンドローム)が注目されています。これは、運動器の障害によって生じる要介護や要介護のリスクの高い状態のことをいいます。人にとっての移動能力は歩くということ。歩行を支えているのは、股関節、ひざ関節、足首関節などの関節です。この関節がうまく機能しなくなると、歩きにくくなり、やがて介護支援の必要がでてきます。関節の疾患である変形性関節症は、ロコモの重大な誘因です。歩けない、動けない、寝たきり、要介護状態にならないように、健康寿命を延ばすためには、ロコモに関心を持って取り組んでいかなくてはなりません。

歳をとれば誰にでも起こる変形性ひざ関節症

ひざの痛みの基本から説明

ひざは、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)とすねの骨である脛骨(けいこつ)の大腿脛骨関節からなる関節で、周りをすべて強い筋肉で包まれて保持安定性を保っているのが特徴です。関節がなめらかでないと正常な動きは得られません。またこの大腿脛骨関節には半月板と呼ばれる特別な軟骨が入っていて、“関節のクッション”の役割をしています。つまり、クッションのように骨と骨が直接ぶつかるのを防ぎ、ひざのスムーズな曲げ伸ばしを助けているのが軟骨です。変形性関節症とは軟骨がめくれてくる関節炎の状態のことをいいます。ひざの関節軟骨が薄くなり隙間がなくなった状態を、変形性ひざ関節症といいます。外傷などが原因による一次性と、加齢によって自然に関節軟骨が擦り減ってくる二次性のものとがあります。長い間同じ車に乗り続けていると、タイヤは摩耗していきますが、多少のすり減りなら車は動きますがパンクしてしまうと動きません。同じように、ひざも痛みがなければ問題はありません。でも、痛くて歩きづらくなったら、その時どうすればいいか考えてみましょう。医療の基本は、痛みの原因を見つけて解消することです。

痛いときの対処の仕方をアドバイスするのが整形外科医の役目

関節のしくみについて先生から問題です

変形性ひざ関節症の初期の症状は、動き始める時に起こる痛みです。進行すると、階段の昇降がつらい、ひざを曲げにくい、正座ができない、和式トイレが使いにくい、ひざに水がたまるなどの症状がみられます。気をつけの姿勢をして立つと、左右のひざの内側がピタッとつかない、O脚が目立つのも特徴です。そうなると、荷重線が内側に偏るから痛みが出ます。変形性ひざ関節症は圧倒的に女性に多いことが分かっています。遺伝の可能性があるかもしれませんし、歳を取れば、確実に軟骨は減ってきます。でも、全員に痛みが出て困った状態になるわけではありません。それならば、痛みが出ないようにすればどうすればいいか、どういう対処の仕方があるかをアドバイスするのが整形外科医の役目です。もし、体重が重いために常にひざ関節に余計な荷重をかけているのなら、減量をして、関節への刺激、力学的ストレスを軽減する必要があるでしょう。関節内に炎症が起きているのなら、科学的な方法で痛み物質を抑えることができます。これが薬物療法です。ひざが不安定で歩くたびに外に揺れる場合や、軟骨がすっかりなくなってしまい常に痛い場合には、外科的な治療が必要となります。患者さんの状態に合わせて、最もふさわしい対応策を提案します。

保存的治療 基本は患者教育と運動療法

運動療法について 運動療法について

日本整形外科学会による変形性ひざ関節症の標準的な治療法で、最も推奨されているのが、患者教育です。変形性ひざ関節症についての知識を伝え、患者さん自身に疼痛予防や筋力向上の大切さを理解してもらうことが大事です。薬物治療も重要です。薬の種類はたくさんありますから、医師は、患者さんに弊害がなく、痛みを抑えることができる薬(服薬・外用薬)を選んで処方しています。欠かせないのが、運動療法(理学療法)・リハビリテーションです。そのほか、足底板やサポーター、杖などを上手に活用して膝にかかる負担を軽くして安定させる装具療法、電気刺激治療、ヒアルロン酸の関節内注射などもあります。今、グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントの摂取が人気ですが、変形性ひざ関節症の治療に効果があるかどうかは疑問です。減量は、ひざの痛みを軽くするのに大きな効果があります。問題は、どうしたら痩せられるかということでしょう。飲むだけでやせられる…なんていう謳い文句にだまされないで、生活習慣、食習慣の改善と運動が、ダイエットの基本です

外科的治療 進歩が著しい人工ひざ関節置換術

膝曲げ

歩行には60度、しゃがむときには100度、正座は140度などが、ひざが曲がるのに必要な角度ですが、ひざ関節の可動域が劣り、運動機能が破壊されて不自由になって困っている人には、外科的治療を勧めています。手術には、関節温存手術と関節置換手術があります。昔から行われているのが骨切り術です。O脚になってずれている荷重点を、骨を切ってまっすぐに整える方法ですが、きちんと骨がつくのに半年間くらいかかるのが難点です。人工関節置換術は、関節の変形した骨の部分を取り除いて、かわりに金属をかぶせ、ポリエチレンでできた人工軟骨と組み合せて、ローリングとスライディングができる関節を作ってあげる方法です。

外科的治療について

悪いところだけを変える部分置換(UKA)とすべてを人工のものに取り換える全置換術(TKA)の2つがあります。UKAは、靭帯を温存でき、回復が早いというメリットがありますが、関節の変形が進んでいる場合、骨壊死がある場合などはTKAになります。人工ひざ関節置換術は、近年、手術の技術と器械が発達して、手術成績がとても良くなっているのは確かです。手術の際に気を遣うのは、できるだけ患者さんの負担を減らすことです。皮膚切開は小さく、できるだけ筋肉を切らない、出血を少なくして早く動けるようにする、それを可能にしてくれているのが最小侵襲手術(MIS)を用いた最新の手術方法です。しかし、関節の破壊がひどく、ひざが90度も曲がらないような場合には、MISにこだわらずに、丁寧に切って行きます。手術時の感染を防ぐことも重要ですから、私たちは宇宙服のような手術着を着用して手術を行っています。

軟骨治療 先進医療の話題

成長期の子供たちが、軟骨を怪我するケースが多くみられます。軟骨の破片(関節ねずみ)が関節の中で動いたときに、激しい痛みが出ますから、その破片を取り除く手術をしますが、軟骨は欠けたままです。そこに、自分の軟骨を移植する「自家軟骨培養移植」が保険適応でできる時代になりました。再生医療の一つです。軟骨はひざのクッションの役割をする大事なものですが、子供がけがをして軟骨が欠けてしまっても、自然に治りません。将来、変形性ひざ関節症の症状が出ないように、予防できる大きな進歩だと思います。

まとめ

  • 変形性ひざ関節症の症状が出てきたら、まず保存的治療が原則です。しかし、だらだら長く続けても効果が見られない場合は、適切な治療方法に切り替えていくことが大事です。
  • 保存的治療で効果がない場合、できれば関節温存手術でうまく整えてあげたい、骨切り術も大事な治療法です。
  • 関節の変形が進んで痛みが強い場合には、人工ひざ関節置換術は、とてもいい方法です。出来るだけ自分の足で歩き、寝たきりになるのを防ぐ、要介護、要支援状態のお年寄りをなくすためにも、人工ひざ関節置換術を勧めたいと思っています。
  • 将来の変形性ひざ関節症の患者さんを作らないように、特に若年者の怪我の対処には注意が必要です。
  • ひざ関節に痛みや違和感を覚えたり、小さな変化に気づいたりしたら、まず信頼できる専門医に診てもらい、納得がいくまでご相談されて下さい。一人一人、疾患の状態や進行度合いが違うので、ご自身のひざの状態に合わせて最もふさわしい対応策や治療法を早めに見つけて維持や治療に取り組んでいくことが大事です。いつまでも元気で自分の足で歩けること、そして健康寿命を延ばして快適な生活を楽しんでもらいたいと心から願っています。

人工ひざ関節置換術後のリハビリテーション(理学療法士・岩里大樹先生)

リハビリについて

手術後にスムーズに歩き、階段の昇降ができるようになるためには、リハビリテーションはとても重要です。手術の前には、ひざ関節の曲がり具合や痛みの程度、筋肉の状態、歩く速度などを検査しておきます。そのデータをもとにして、それぞれの患者さんの手術後のリハビリテーションの流れとプログラムが決まります。
手術の翌日からリハビリを開始します。深部静脈血栓症などの合併症の予防のためにも、寝がえりや足首を動かす運動などを指導します。フットポンプや弾性ストッキング、弾性包帯なども活用します。2日目からは運動を開始します。ひざの下にタオルを敷いて、押しつけるように力を入れるパテラ・セッティング(卵つぶし)という運動や、足あげの運動(仰向けに寝て片足のひざをたて、反対側の足を上げる)を行います。
3日目からは歩いたり、膝のあげおろしの運動を行います。椅子に座って膝を曲げ伸ばすヒールスライド、膝をゆっくり伸ばし保持してゆっくりおろす大腿四頭筋を鍛える運動を続けます。歩行器での訓練も開始します。
1週間後、器械を使ってのひざの曲げ伸ばしや、椅子に座ったままで筋肉を鍛える運動を開始します。2週間くらい経つと、杖を使っての歩行訓練に入ります。一歩踏み込む時、荷重がかかる動作の指導も始めます。3週目で、階段昇降の練習や、自転車をこぐ、膝をスムーズに動かす運動をはじめ、1ヶ月くらいで退院することになります。退院の前に、一度外泊して実際に自宅で過ごしてみます。困ったことや気付いたことを報告してもらい、場合によっては自宅に手すりをつけるなどのアドバイスも行います。基本的には杖を使って、日常動作が難なくできるようになってからの退院となります。退院後も外来でリハビリを続けます。
手術後、ボーリングやサイクリング、ゴルフ、ウォーキングなどは積極的に行ってくださいと話しています。手術後に正座ができるかという質問をよく受けますが、基本的には、ひざへの負担を考慮して、正座、和式トイレ、しゃがみ込みはしないほうが望ましいと思います。立て膝、膝をつく姿勢は大丈夫。できれば、椅子やベッドの洋式生活に変えたほうがいいでしょう。

ひざ痛みを防ぐために 継続して運動を

筋力トレーニングについて

軽いひざの痛みがある場合や、このあと痛みが出ないようにするために、ひざの関節液を流す運動、例えば、椅子に座ったまま足踏みをする運動を勧めています。筋力トレーニングとして、ハーフスクワット(30度くらいに足を開いて腰を後ろに引き、前傾姿勢で膝の筋肉を鍛える)や、1分間の開眼片足立ちを毎日行ってください。最も有効な運動がウォーキングです。身体的効果ばかりでなく、精神的効果があります。心肺機能が強化、血圧安定、骨や筋肉を鍛える、肥満の解消、肝機能にも動脈硬化にもいい…、いいことだらけのウォーキングです。たとえ変形性ひざ関節症であっても、できるだけ歩いたほうがいいのです。毎日外を歩くことで、幸せ感や、脳の活性化、リラックス効果、気分転換、やる気も出てくるし、新たな発見もあるでしょう。50歳代は1万歩、60歳代は8000歩、70代は5000歩、80代は3000歩を目安に、是非毎日歩いて下さい。それでも痛みが出て歩けなくなったら、医師に相談をして治療法を考えましょう。

予定時間を迎え、講演は終了となりましたが、会場からの全ての質問や相談に先生が応じてくれました。参加者に感想を尋ねると、「分かりやすかった」「自己管理と検査の重要性を改めて認識した」「関節に痛みと不安があり、今日の話を参考に一度病院へ行きます」「また先生のお話が聞きたい」という声が多く聞かれました。

先生プロフィール

医療法人 明徳会 新都市病院
副院長 坂田 悟先生

1991年浜松医科大学医学部卒業後、浜松医科大学部附属病院、浜松リハビリテーション病院を経て、磐田市立総合病院整形外科科長就任。2010年に現職の新都市病院副院長就任。日本整形外科学会 専門医・スポーツ認定医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医・運動器リハビリテーション医
日本体育協会公認 スポーツ医

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