専門医インタビュー
人工股関節置換術で考えられる主なリスクは3つ、脱臼・感染・血栓症です。1つ目の脱臼については、手術方法によるところが大きく、前方系アプローチで行うことで発生率は非常に低くなっています。2つ目の感染は、人工股関節置換術に限らずどのような手術にも伴うリスクですが、術後24時間は抗生剤を点滴投与するなどして予防します。3つ目の血栓症は、エコノミークラス症候群という名前でも知られていますが、血流が悪くなることで血管内に血の塊ができるものです。発生率は高くはありませんが、足の静脈にできた血栓が肺に運ばれて起きる肺梗塞などに注意する必要があり、術後1週間程度は血液をサラサラにする薬を服用します。
手術当日は全身麻酔をかけているためベッド上で安静にして過ごし、翌日からリハビリを開始します。まず車椅子への移乗訓練から始めて、可能なら歩行器を使った歩行へと移ります。3日目ぐらいには杖歩行を始め、安定してきたら次は杖なしでの歩行訓練です。その後、階段の上り下りがスムーズにできるようになれば退院です。入院期間は個人差がありますが、10日前後で多くの方が退院していきます。術前にある程度筋力が残っており、変形が少なかった方のほうが回復は早く、3日間ぐらいで退院していく例もまれにあります。術後の痛みの感じかたについては個人差が大きいものの、術後10日~2週間くらいまでは痛み止めを使用するのが一般的です。
「術後、何ができますか?」という質問は患者さんからよく聞かれますが、筋肉を切らない前方系アプローチの手術であれば、脱臼リスクも低いため日常動作に特に制限はありません。車や自転車に乗ったり、走ったりするのも問題ありませんし、普段の生活で「このような姿勢は避けるべき」という禁止事項は設けていません。退院後は速やかに以前の生活に戻っていただき、デスクワークなどであれば仕事復帰もすぐに可能でしょう。
運動に関しては、格闘技などのコンタクトスポーツ以外は可能です。ただし、術後3~4カ月間ぐらいは控え、人工関節と骨が固着するのを待ってからの復帰をお勧めします。バレエやヨガなど特殊な可動域を必要とする方についても復帰は可能ですが、注意したほうがよい特定の姿勢がいくつかあるため、主治医の先生に相談の上、指示に従ってください。
股関節に痛みや違和感があるようであれば、やはり早めに整形外科を受診していただきたいと思います。専門医による診察を通し、ご自身の股関節が今どんな状況にあり、どのような治療方法が望ましいのかを知ることができます。適切な時期に適切な治療を受けられれば、以前と変わらない生活を送れることもあります。ご自身が納得して治療を進められるよう、信頼できる医師とよく相談して、適切な治療のタイミングを逃さないようにしていただきたいですね。
ページの先頭へもどる
PageTop