メニュー

専門医インタビュー

痛くない側の脚で10秒間立つことができますか? 筋力が弱る前に股関節の専門医に相談を

この記事の専門医

神奈川県

プロフィールを見る

横浜市立大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会リウマチ医

この記事の目次

人工股関節置換術を行う目的は何ですか?

イラスト

片脚で10秒以上立てれば術後は杖を使って歩くことができます

人工股関節置換術を行う目的は、痛みを取り除き歩行能力を再び獲得することです。片方の脚で10秒以上立てれば一本杖で退院できますし、退院して3カ月くらい経てば杖を使わないでも歩くことも可能でしょう。しかし、数年間車イスの状態だった人は脚の筋力が相当弱っていますから、手術をしてもすぐには歩けないかもしれません。多くの人は股関節が悪いと動かなくなるので、脚の筋肉が落ちてしまいます。特に痛くない方の脚の筋肉が重要で、手術の効果を十分に出すためにも、筋力がすっかり落ちてしまって片方の脚で立てなくなる前に、手術を行いたいと考えています。脚の筋力がどのくらい残っているかについては、最初に診察室に入ってくるときの姿勢が大変重要な情報になります。手術をするかどうかは、脚の筋肉の状態と患者さんの痛みの症状、レントゲン所見などをみて総合的に判断します。70歳以上85歳以下の人が痛みや辛さに耐えきれず人工股関節置換術を希望する場合は、迷うことなく手術を勧めます。

患者さんの中には、どうしても手術が嫌だという人もいると思いますが。

患者さんには、「一刻も早く受けたいと思っている人」と「手術を勧められたけれど本当は嫌だと思っている人」の2パターンいらっしゃいます。本人が常に痛みを抱えており、日常生活のあらゆる面に支障が出ていて人工股関節置換術を受けたいと希望していれば、仮に50歳以下の人でも手術をします。ただ、将来的に人工股関節の入れ替え手術が必要になるかもしれないという話をします。できれば手術は受けたくないと思っている人の場合は、まず痛くない方の脚の筋力を確かめます。筋力が十分にあれば、しばらく様子をみることもあります。もし片脚で2秒~3秒しか立てなかったら、10秒間立てるようになるまで筋力トレーニングを頑張ってもらいます。そして、「このままだと、いずれ人工股関節置換術を受けないと歩けなくなりますよ。でも、ある程度の筋肉がついてから手術をすれば、歩けるようになります」と話をします。このような説明を丁寧にしたけれど、それでも手術は嫌だという人には、手術を無理に強いるようなことはしません。

手術前後のX線。左右で位置のずれていた股関節が術後は揃っているのが分かります

変形性股関節症は命に関わる病気ではありませんし、そもそも本人に意志がない限り術後適切に回復することは難しいでしょう。なお80歳にもなれば多くの人は何かしら内科的な病気を持っているため、全く問題なく手術できる人はそう多くありません。持病がある場合には、それらをコントロールできるようになってから手術を行います。治療の選択をはじめとして、患者さんと十分にコミュニケーションをとることが大切だと考えています。

人工股関節置換術の具体的な流れについて教えてください。

手術予定日の1カ月前に、採血、心電図、肺活量などの一般的な検査を行います。場合によっては、心臓超音波検査を行うこともあります。また自分の血液を400cc、2回に分けて採血し保存しておきます。手術前日は麻酔科とリハビリテーション科の評価を受け、筋力と股関節の可動域を確かめます。手術時間は1時間半~2時間くらいです。手術時間は短いに越したことはありませんが、早く終わればそれでいいというわけではありません。むしろ、正しい位置に確実に人工関節を設置することが大切だと考えています。手術はできるだけ筋肉を切らずに行っています。一度切ってしまった筋肉は、切ったところを適切に縫っても元通りには戻らないため、できる限り筋肉を温存することが重要です。具体的には、筋肉と筋肉の間から入っていき関節の袋を切り、骨を削るけれど筋肉はなるべく残す方法で行っています。この方法で手術を行うと筋力が保たれているため、回復も早くスムーズに動けるようなります。中には少し突っ張った感じがするという人もいますが、筋肉を切らずに手術した方が術後脱臼しにくいのは確かです。


この記事の医師がいる
病院の詳細はこちら

ページの先頭へもどる

PageTop